【対談】吉岡裕子×梨本卓幹×宮里倫史『対談で伝える「響鳴」の魅力』第3回:星を聴く人ウルマス・シサスク

2019年11月2日開催の「梨本宮里ピアノ・デュオ Contemporary Piano Duo Concert -響鳴-」に向けて連載中のこのスペシャルコラム。第3回ではエストニアの作曲家ウルマス・シサスクについて、彼とも親交が深く、現在シサスクのピアノ曲集「銀河巡礼」の全曲演奏にも取り組んでいらっしゃるピアニスト吉岡裕子さんをお迎えしてお話ししていきます!


☆ウルマス・シサスク☆

ウルマス・シサスク(Urmas Sisask)はエストニア出身の作曲家。星空や宇宙にまつわる作品を、ピアノ曲、合唱曲、マンドリン曲、オーケストラ曲などと多岐にわたるジャンルにおいて書き続けています。そのきっかけは14歳のとき、庭で見上げた星空のあまりの美しさに魅せられたことだとか。そのとき頭上に輝いていたカシオペア座を見ながら、ピアノで即興演奏をしたのが彼の「天体作曲家」の始まりだそうです。星空や宇宙の魅力を伝え続けるウルマス・シサスクの魅力に迫ります!


貴重なシサスクの手書きの楽譜を手にして

梨本「今回のトークメンバーは僕梨本とお馴染み宮里倫史(もとし)くん、そしてスペシャルゲスト吉岡裕子さんです。よろしくおねがいします。吉岡さんは何年も前からシサスク本人との親交を深めていて、さらに彼の作品の初演やCD録音といった、とても重要な役目を担っていますよね。そもそもの出会い、というか、どうやってシサスクを知ったんですか?」


吉岡「シサスクの作品との出会いはね、たった1枚のCDなんです。そのとき何かきれいな雰囲気の現代音楽はないかと思っていろいろ探していたのね。当時まだAmazonで買うとかそういう時代じゃなくて、自分で探しに行って、そこにあるものしか聴けないっていうような時代。それでたまたま通りかかった現代音楽コーナーの棚にね、日本語で「シサスク〜銀河巡礼」って書いてあるのをみつけて。気になって裏を見てみたら、星座の名前がばーって書いてあって、なんだこれ!って。もう衝動買いですよね。笑」


梨本「お、自らの手で探したからこそ出会えた運命の1枚ですね!そのCDというのはFinlandiaRecordsから出ているラウリ・ヴァインマーが演奏しているものですね。銀河巡礼第1集「北の星空」が収録されているもの。」


吉岡「そう!それで、演奏したいってなったんだけど、楽譜がない。当時エストニアがどこにあるのかも分からないってくらい情報が自分にない中、それでもなんとかインターネットを駆使して情報を調べていたら、広島のノルディックサウンドっていうCDショップがヒットして。そこの店長に楽譜を入手できないかってダメ元で相談したら、どうにかこうにか、エストニアから自筆譜を取り寄せてくれたの。ここまで2年。」


宮里「2年!?それはもう執念ですね!シサスクの自筆譜は彼が描いた星図も凄いんですよね。」


吉岡「これなんか凄いでしょ!アルゴ船座。」


梨本・宮里「うっわ!!!」


吉岡「このアルゴ船座、大きすぎるから今ではとも座、ほ座、りゅうこつ座の3つ(らしんばん座を含むこともある)に分かれてしまっているのだけど、私のCDのアルバムアートにもなっている写真を撮った天体写真家の有賀哲夫さんに見せたらとても驚いていました。有賀さんは星空観望会の講師も務める方なのだけど、シサスクはきっと星空のとても細かい深いところまで理解して記憶しているんだろうって。」


梨本「この他にも各曲に手書きの星図が付いているんですもんね。出版譜だと主要な星のみの構成に手直しされてしまっていて、こういった細かい星や銀河(画像中にMとか数字で書いてあるもの)は省かれてしまっているので、ちょっと、想像以上でした。」



音を聴く。消えるまで。

宮里「吉岡さんはシサスクに会いにエストニアへ行かれたこともありますよね。どんな方という印象を受けましたか?」


吉岡「2005年に、ワルシャワへ行く用事があって、せっかくだからとエストニアも旅行先に入れたの。最初は全くシサスクと会えるとは思っていなかったのね。でもたまたま、「音楽と星の塔」っていうシサスクのアトリエが入っているヤネダのマナーハウスのホームページを見つけて、メールで問い合わせてみたらなんとレクチャーコンサートをしてもらえることになったの!」


梨本「行動力!!じゃあ、シサスクと直接会って、彼の作曲アトリエで、彼の本人による演奏と曲の解説ことを聴くことができたんですね...!羨ましい...」


吉岡「2時間くらいかなぁ。私も楽譜を持っていったからあれ弾いてこれ弾いてって頼んで弾いてもらったり、壁いっぱいに貼られた天体写真について話を聞いたりしました。あと、大きな長い鍵盤の絵みたいなのがその写真と一緒に貼られていて、これ何?って聞いたら、宇宙の鍵盤だっていうの。何オクターブかなぁ、彼は下の方に長いんだって言ってました。」


宮里「宇宙の鍵盤。なんだか詩的ですね。」


吉岡「その場所っていうのが、天井がドームみたいになっていて、響きがいい場所だったんだけどね。最後が静かに終わるような曲で拍手をしようとすると、サッと手を出して、「まだだ、まだ消えるまで聞いてほしい。そういうのが大切なんだ」って言ってたのがとっても印象的。とにかく音をすごく聴いているし、あと音楽の中に没入していく集中力がすごくて、一人で別世界に行ってしまうみたいな。本人は普段シャイなんだけど、音楽を奏でると別人なの笑」


梨本「それだけ宇宙への想いとか、音楽を表現することが好きなんですねきっと。2015年にシサスクが初来日したとき、僕らデュオもお会いすることができたんですが、そのときはハイタッチなんかしてくれて、その少年のような純粋な振る舞いに彼の作品をもっと身近に感じることができたんです。」


宮里「でもやっぱり演奏しているときは彼独自の世界に入り込んでいた印象がありましたね。彼の中にはどんなに広い世界が広がっているんだろうって。我々が今回演奏する「スパイラルシンフォニー」でも爆発的な部分と静かに消えてゆくような部分があって、そのどちらもが宇宙らしい響きを作り出していると思います。」




星を聴く人、ウルマス・シサスク

梨本「吉岡さんはシサスクの音楽、どう聴いてほしいですか?」


吉岡「シサスクが以前こんなことを言ってたの。」


あなた方がこのコンサートでお聴きになる音楽は何百万年もの昔にその起源をもつものです。私は、ただそれをあなた方にも聴けるようにしただけです。こうした音楽を聴き、それを聴けるようにするという能力も、何百万年も昔からあるものです。私はただそれを結びつけただけです。(中略)もっと空を見上げ、そして耳を澄ませてください。そうすれば、星空全てを音楽に書き表したいという私の願いがわかっていただけるでしょう。


吉岡「彼の音楽は人々に星を見てほしいという願いの現れだと思う。演奏家は、彼の書いた音の起源に何があるのか考えないといけないと思う。一見シンプルに書かれているように聴こえる曲も、実は星々の並びや位置関係とかのとても複雑なものを元にしている可能性が大いにあると思う。シサスクが見ている星空というのは今日本で見ることのできる星空とは比べ物にならないくらい満天の星空だけれど、それでもそういった追求の結果、聴いてくれる人が星を見に行きたくなったらいいなと思う。」


宮里「あの星図を見ただけでも星への知識量がいかに凄いものかわかりますもんね。音の意味、音と音の行間に何があるのか、我々も考え続ける必要がありますね。」


梨本「本物の星空を見てほしいという思いこそがシサスクの願い。実際に演奏を聴いて、そして星を見て。そうしてできることならもう一回曲を聞いてみる。そんな繰り返しを聴いている人がしたくなってくれたら、そして星、宇宙へ思いを馳せてくれたら、それはもう我々の本望ですね。」


(▲左から梨本卓幹、宮里倫史くん、吉岡裕子さん)


と、いうことで、今回吉岡さんにはウルマス・シサスクについてたくさんのエピソードを聞かせていただきました。吉岡さんは現在シサスクの作った全88星座を含むピアノ曲集「銀河巡礼 (Starry Sky Cycle)」の全曲演奏チクルスに挑んでいらっしゃいます。先日9月28日に第1集「北半球の星空」を終え、次回は我々のコンサートの翌日、11月3日に第2集「南半球の星空」を演奏されます。

我々のコンサートでピアノ連弾による銀河の響きを聴いて、その翌日、ピアノソロによる星座の輝きに耳を傾けてみる。そんな素敵な11月の幕開けはいかがですか?


吉岡さんのさらに詳しいコンサート情報、及び更に詳しい星々の情報は、吉岡さんの公式ホームページやブログからご覧ください!


[吉岡裕子公式ホームページ]

[銀河巡礼〜特設ブログ〜]



梨本宮里ピアノデュオ Contemporary Piano Duo Concert 『響鳴』


*日付 *

 2019年11月2日 14:00開演 (開場13:30)

*会場*

 公園通りクラシックス

 (東京都渋谷区宇田川町19-5 東京山手教会B1F)

*チケット*

 [全席自由] 前売り:3000円、当日:3500円

*プログラム*

 ・ライモ・カングロ(Raimo Kangro) : Klimper Op.20 No.4*

 ・デュティユー(Henri Dutilluex) : Figures de résonances

 ・ヒンデミット (Paul Hindemith): 2台のためのソナタ

 ・川上統(Osamu Kawakami) : 越前海月 (2019年改訂版)**

 ・ウルマス・シサスク(Urmas Sisask): The Spiral Symphony

    (*日本初演  **世界初演)


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梨本宮里ピアノ・デュオ

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ウルマス・シサスク

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梨本卓幹

1995年長野県千曲市に生まれる。
幼少の頃よりヤマハ音楽教室にてピアノと作曲を学ぶ。東京音楽大学付属高等学校ピアノ演奏家コースを特待奨学生として優等賞で卒業。その後東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を卒業し、現在はハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽院の修士課程に在籍。Stipendium Hungaricum奨学金生。
TrioRoppi、梨本宮里ピアノ・デュオ、市川市文化振興財団フレッシュアーティストバンクに所属。
これまでにピアノを松橋千恵、武沢洋、篠井寧子、斎藤雅広、西川秀人、岡田敦子、横山幸